えび茶ゾーン

2014年7月14日

第922回

 現在の戸山キャンパスは「迷宮」である。33号館低層棟の建て替え工事のため動線が複雑化し、目的の教室に行くためには校舎をつなぐ渡り廊下や階段を巧みに通り抜けなくてはならない。

この戸山「迷宮」の舞台は、31 ・32 ・33号館を中心とする建物が、34 ・36 ・38 ・39号館と複雑に連接しているために生まれている点に気付く。その中心にあるのは、村野 藤吾の設計空間である。

日本を代表する建築家である村野 藤吾(1891 ~1984)は、早稲田大学で建築を学んだ。彼の設計した建築には、国の重文に指定されているものもある。

正門から真っすぐ延びるスロープの先、さまざまな高さの校舎で囲まれた空間、そこが戸山キャンパスの「中枢」である。その心臓部から放射状に広がるように各校舎は互いに連接している。

土に埋もれた古代の都を研究している私には、もちろん校舎の建築学的な価値はよく分からない。しかし、中枢を持つこの空間構造に託された村野の思想にいろいろな想像を巡らせてしまうのは職業病だろうか…。

建て替えラッシュが続く早稲田のキャンパスは、景観が大きく変容しつつある。一方で、建て替えによって校舎が新しくなっても、思想的な空間構造が時を超えて残存していく点、それが建造物の魅力の一つだと思う。

授業のために校舎を彷徨(さまよ)いながらも、そこに隠された設計者の思想や工夫に思いを巡らすのも悪くない。私にとって、今の戸山キャンパスも古代都市と同じくらい魅惑的な「迷宮」である。(J)