えび茶ゾーン

2014年12月15日

第933回

 今年11月初旬の数日間、西早稲田キャンパスの一角に、縦横約2m四方の模型が置かれていた。実はこの模型は、私がこの大学で教えることになる前の1995年、瀬戸内海の小さな島で数年がかりで完成させたある保養所の模型である。同時代的には当時を知るはずもない若い学生たちが、この作品の掲載された当時の雑誌を携えて模型を再現してみたいとやって来たときは、急に20年ほどタイムトリップしたような不思議な感覚に襲われた。久しぶりに夥(おびただ)しい枚数の図面を探し、整理して模型制作に必要なものを選んでコピーを学生に手渡す。学生に細部を聞かれると記憶の怪しくなっているところも出てきたから、それを確認するために、慌てて授業の他に一晩、学生を集めて私が当時の現場で撮っていた写真を見る機会も設けたほどである。撮ったままになっていた写真は、時間を経ているにもかかわらず、いやに生々しく見えた。今思い出すと、そもそも、この建物の仕事の頼まれ方、設計のプロセス、施工のプロセス、何度か映画祭なども開かれた使われ方、またその後の経緯など、一つ一つがあまりに鮮烈で、とても簡単に語り切れるものではない。しかし一つ言えるのは「建築は出来事だ」と常々言ってきた私にとってさえ、それがこれほど運命のように見える建物はなかったのだ。その建物が今学生たちの手で模型化されることによって、その経験を共有できることが「建築」というものの最も面白いところではなかろうか。しかも今年は、この学校で私が教える最後の年なのである。 (R.S.)