えび茶ゾーン

2015年1月19日

第935回

 早稲田大学の定年を2016年3月に控えた現在、私が最も力を入れているのは、これまで半世紀近くにわたって書いてきたスペイン美術史(中南米の植民地時代を含む)の自選論集の編集作業である。最近書いたものから30歳前半の留学前後のものまで、また時代的にも古代イベリア時代の美術からピカソまで、多種多彩である。なぜ、ここまでスペインに執着してきたか、今もって自分でも分からないが、おそらく造形上のナイーブさ、直截(ちょくせつ)な表現性、“光と影”のコントラストなどにとらわれてきたからであろう。

 それら若いころの文章を読み返すことは過去の自分との対話である。そこで第一に思うのは、「人間は大して進歩しない」という感慨である。確かに、情熱的で直線的な論述は、若気の至りではあるが、その根本にある見方やコンセプトは70歳を前にした今の私と大して変わらないのである。これには愕然(がくぜん)としたが、逆に言えば、若いころの思考や考察は極めて本質的なものがあって、決しておろそかにしてはならないということだ。

 若いころの感受性は豊かだし、たとえお金はなくても馬力はある。初めてヨーロッパを知ったのは院生時代、23歳のときだが、その当時の印象や思い出は今でも私の中に生き続けて、大きな霊感源となっている。最近の若い人たちは外国に出たがらないという。本当に残念だし、惜しいことだ。人生観、世界観が変わること、間違いなしだ。日本の良さは、外国に出て初めて本当に理解できようし、ものの見方や価値観が客観化されるのだ。

 若いときこそ、多くを見、多くを知って、豊かな個性を創ってほしい。(Y.O.)