professor's eye

2015年4月13日

  • ▲理工学術院教授 佐藤 哲也

  • ▲極超音速航空機イメージ(写真提供JAXA)

理工学術院教授

佐藤 哲也(さとう てつや)

 

 

宇宙旅行を実現するスペースプレーンのエンジンを開発中

 

  東京からロサンゼルスまで2時間で行ける。──そんな未来がすぐそこに来ているのかもしれない。佐藤哲也教授の研究室が取り組む「予冷ターボジェットエンジンの開発」が成功し、速度マッハ5 で飛ぶ極超音速航空機が実現すれば理論的には可能になる。JAXAで航空宇宙機用エンジン開発に携わっていた佐藤教授に、研究最前線から宇宙開発の現状まで、詳しく伺った。

 

 

 「スペースプレーン」という言葉を聞いたことがありますか?これは、特別な打ち上げ設備を必要とせず、自力で滑走して離着陸や大気圏離脱・突入を行うことができる有翼宇宙船のこと。航空機と同様に着陸ができるので、機体の再利用が可能なのが特長です。日本語では「宇宙往還機」と呼ばれています。
 現在、宇宙空間までの輸送・移動手段としては、「ロケット」が使用されています。ここで課題となっているのが、特別な打ち上げ設備が必要で、発射場所も限られるということ。また、機体の再利用ができないので、莫大(ばくだい)な費用や資源が無駄になっています。スペースプレーンが実用化されれば、現在のロケットの運用面での問題が解決できます。私たちは、この「未来の宇宙船」に搭載するジェットエンジンの開発を行っています。

 

 マッハ5飛行を実現させる予冷ターボジェットエンジン

 ロケットには、さまざまな種類がありますが、現在の主流は、液体水素と液体酸素を搭載して、使い終わった燃料タンクやエンジンを切り離しながら宇宙への到達を目指す多段式ロケット。ロケットの約8割を燃料が占める非効率な構造になっています。
 それに対し、私たちが提案しているのは「ターボジェットエンジン」の利用。大気中の酸素を吸い込むことで、燃料である液体酸素を節約できます。こちらの性能がいかにも良さそうですが、なかなか実現できないのには理由があります。
 最大の課題は、エンジンに空気を吸い込む際の温度上昇です。私たちが目指すマッハ5のターボエンジンを実現しようとすると、エンジンの空気吸い込み口に当たる「インテーク」の部分の温度が1,000℃以上になってしまうのです。そこからコンプレッサー(圧縮機)で空気が圧縮されることで、さらに温度は上がります。するとエンジン内の部品が溶けてしまうのです。
 解決策は二つ。「エンジンを冷やす」か「溶けない素材を開発する」こと。私たちが選んだのは前者でした。具体的には、インテークとコンプレッサーの間に燃料である液体水素を用いた予冷器(熱交換器)を置き、流入する空気をあらかじめ冷やす構造を考えています。私たちはこれを「予冷ターボジェットエンジン」と呼んでいます。このエンジンを航空機に利用すると、東京からロサンゼルスを2時間で結ぶ極超音速旅客機になります。

 JAXAとの共同実験で未来を変える研究を

 私たちは、JAXAと共同で、地上でのエンジン燃焼実験や人工的に風を吹かせる「風洞」を使った実験などのさまざまな実験を行っています。
 工学系の研究は、まだ誰も実現していない何かを世に送り出せる可能性を秘めています。だからこそ、学生にはたくさんのポジティブな失敗をしてほしい。社会に出れば、リスキーな挑戦はしにくくなります。研究機関や企業は、常識の枠にとらわれない自由な発想を学生に求めているのです。
 効率的で安全性の高いスペースプレーンが実現できれば、宇宙旅行や太陽光発電衛星、他惑星の資源の利用など、新しい産業を創造したり、エネルギー問題を解決することも可能です。早稲田大学の充実した研究環境をフル活用すれば、未来を変えることも不可能ではないのです。

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プロフィール 1987年、東京大学工学部航空学科卒業。1992 年同大学院工学系研究科航空学専攻博士課程修了(工学)。文部科学省宇宙科学研究所助教授を経て、2003年より宇宙航空研究開発機構(JAXA)総合技術研究本部エンジン試験技術開発センター主任研究員、航空エンジン技術開発センター主幹研究員を歴任。2007年より現職。現在の主なテーマは「予冷ターボジェットエンジンに関する研究」など。専門:航空宇宙工学、熱工学

 

 

 

 

 

 

●もっと詳しく!お薦め図書

 

『航空機研究開発の現在から未来へ─技術はどこまで到達しているか』
宇宙航空研究開発機構航空プログラムグループ研究開発本部/丸善プラネット/1,512円(税込み)

 

JAXAが取り組む最先端の航空機研究開発の現状を紹介する書。今や世界中の移動手段として不可欠な存在である航空機に組み込まれた日本の技術、さらに今後の航空技術に求められる課題が詳しく解説されている。