えび茶ゾーン

2015年5月18日

第940回

 

70年代半ばにヒットした次のフレーズで始まる歌がある。「下駄をならして奴が来る~腰に手ぬぐい~ぶらさげて~学生服にしみこんだ~男の臭いがやってくる…」

 

本学にご縁をいただく前の私にとって早稲田大学のイメージはまさにこのフレーズそのものであった。寿司屋の湯飲みに書かれているあの太くてずんぐりとした隙間のない筆致の勘亭流(かんていりゅう)「早稲田」のイメージである。ところがいざ着任してみると従前思い描いていたイメージはどこにも無い。シャープでスマートな明朝体をさらにイタリックにしたカッコイイ「早稲田」しか見当たらないのである。

 

着任して数年が経った頃,「三浪しても早稲田に入りたかった」という念願を見事にかなえた地方出身のA君と知り合った。ある日の講義の後、彼から就職活動が上手くいかないという相談を受けた。「要領はあまり良くないけれど、君みたいな骨のある学生を企業が欲しがらない訳がない。どうしてなんだろう?」。訝しがる私にA君は私の目をしっかと見つめていつもの低く野太い声で「最終面接までは行くんです。必ず。でも最後にうちで骨を埋めてくれよ、いいなって聞かれると、いつもこう答えてしまうんです。約束できませんって」

 

早稲田の凄みを感じた瞬間だった。人生を左右しかねないこの重大場面でこんな言葉は発せられない。

 

時代は流れ変わる。大学も例外ではない。しかし、変えてはならない本質や伝統はある。A君のような気骨溢れる勘亭流学生を、静かだけれども熱い志をもって、いつまでも大切にしてゆきたい。 Z

 

【JASRAC出:1504070-51】