えび茶ゾーン

2015年5月25日

第941回

 

 筆記用具をほぼ使わなくなった。唯一のとりでは講義のチョークである。自分の仕事がそういう状況を許しているのだが、パソコンのキーボードで済ませることが多い。ところがこの状況にも変化が付け加わり、タブレットに指で書くという経験が少しずつ増えてきている。何だか古代人に先祖返りした感じで面白い。筆記用具という直線状の書くだけの道具が、タブレットという書いて記録する平板に代わっただけであるが。

 

 情報環境のリアルな環境への進出はすさまじい。Webを徘徊(はいかい)するようになって、本は読まない、テレビはつけない、手紙は書かない、電話はかけない、金銭は触れない、人に尋ねない…世の中の情報化は始まったばかりで、おそらくネット上の空間が外の世界と対等に張り合う時代が来るのであろうと思う。ネットに登場する人間やアバターの存在だけでなく、ボーカロイドがコンサート会場を沸かせ、リアルな人形がしゃべり始め、現実世界の人の存在そのものもアヤシイ時代が到来するのであろう。そういうことはもう何十年も前にSFが予言していたことではある。

 

 情報にさらに医学の進歩が加わる。最後のとりで、人の脳に対して情報を直接出し入れする、それは映画の『トータル・リコール』やアニメの『攻殻機動隊』で描写されているが、そういう時代はきっと来る。あらゆるアイデンティティーが揺らぐそのような時代に、今のわが大学のように実際に人が集まって行う教育はあり得るのだろうか。「人が集う」ことの価値とはいったい何であろうか。(D)