えび茶ゾーン

2015年10月26日

第952回

 

 学生会館の移転や校舎の建て替えなどとともに早稲田界隈も様変わりしてきたが、古くからある店も少なくない。学生や教職員と長年付き合ってきた店主たちから聞く話は面白い。

 

 最近では、南門通りにある「キッチン南海」のマスターの話が興味深かった。卒業後何年もたってから来店したかつての常連学生が、例えば名物のカレーを食べて「味が変わりませんね」と言ってくれるのは嬉しいそうだ。しかし、味が変わらないことを喜んでもらえるからではない。

 

 実は、カレーの味は年々少しずつ意図的に変えているのだそうだ。時代とともに食べる側の味覚は変わる。最近はおおむね辛みの強い方へ向かっているので、その傾向に合わせて味を調えていると言う。そう聞いて初めて、ここのカレーを食したあとに出る汗が前より多くなった理由が分かった。

 

 変わらないと思ったものが実は変わっている。にもかかわらず、こちら側とあちら側の双方が変化しながら不変の(ような)関係を成している。人間の関係もそういうものだと思う。微調整をし続けることで、あるべき関係が保たれる。夫婦や親きょうだいの関係はその典型だろう。

 

 以前やはり南門通りにあり、マーボー豆腐のスタミナライスが絶品だった「キッチン・カナリア」のご夫婦は、店のアルバイトや客の学生たちを長く見てきて、「夫婦のように一緒に暮らしている学生カップルは、卒業後に別れることが多い」と言っていた。学生から社会人へ。微調整では対応できない大きな変化があるということだろうか。(AS)